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遺伝とは
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遺伝ということがいちばん多く話題になるのは、結婚のときだといってよいでしょう。
なぜなら、親からの遺伝が、結婚によって生まれる子どもにどう現われるかという心配をもつからです。これから結婚する方たちも、多かれ少なかれ遺伝について考えるのではないでしょうか。そのための手がかりになることを述べてみましょう。
ところで、遺伝というと、なんとなく宿命的な、暗いものと結びつけて考えやすいものです。たしかに悪い遺伝は宿命的だといってよいでしょうが、また遺伝あるがために、好ましく、しあわせな場合もあるわけです。
私たちのもっている普通の性質、たとえば頭の働きの程度、声の調子、目の大小隔鼻の形、結核その他の病気にかかりやすい体質などという、ごくありふれた性質の多くは、遺伝的なもので、親から譲り受けたものです。
ただ、同じ遺伝を受けても環境の違いによって、いろいろと現われる状態は変わってきますが、根本になるものが遺伝であることはいうまでもありません。
そして、今あげたような、普通のありふれた性質の場合は、注意をひきませんし、遺伝を研究する重要な資料にはなりません。奇形とか、病気とかいう遺伝的にはっきりした性質のものが、人間を対象にした遺伝の研究の資料として扱いやすいため、いきおい、これらの好ましくない遺伝を問題にすることが多く、遺伝というと、とかく、人生の暗い一面だけを示すように思われたり、隠しておきたい悪い性質をあからさまにして、不幸な宣告をするもののように考えられてきました。
しかし、「遺伝の研究というのは、そういう悪い面だけでなく、人がどんなよい性質をもっているか、どうしたらそれを発展させることができるか、また、隠れているよい性質をどういうように引き出して、幸福な人生を過ごすことができるかを、示す竜のといってよいでしょう。
最近は、遺伝的で不治と考えられていた病気ですら、だんだん治療できるような研究が進められていますし、隠れている天分を伸ばすような教育も行なわれているのですから、そのうちには、人のもっている性質を人の力で変え、よいものにして子孫に伝えることもできるようになりましょう。
ところで、遺伝がいちばん問題になるのは結婚のときですが、結婚に限らず、日常生活において、相手の人がらを理解し、円満に接してゆくカギとして、遺伝を考えることも必要なのです。
人がらというものは、親譲りの遺伝的素質と、後天的に受け入れた性質と、それらが環境の影響を受けて変化したものと、この三つの要素から成り立っていると考え、てよいでしょう。しかも、こうして作り上げられた人がらの本質的なもの、根本になるものは、親から伝えられた遺伝的なものといってよいのです。俗に「トビはタカを産まない」と言われていることばは、よくこの事実を表現しているといってよいでしょう。
ですから、恋愛から結婚への過程においても、冷静に相手の周囲を見て、遺伝的なものを観察することにょつて、相手の姿を見きわめることもできますし、これが結婚へふみきる、一つの決め手にもなりましょう。
ところ.で、遺伝というのは、どういうことでしょうか。それは、親のもっている遺伝の本体(遺伝子)が子に伝えられることです。もっと詳しくいうと、人め体は何兆という数の細胞ででき上がっていて、この細胞には、それぞれ一つの核とよぶ小球を含んでいます。
そして、この核の中には、男女ともに四八本(四六本ともいわれている)の染色体という糸が入っており、この染色体にきまった順序で遺伝子が並んでいて、遺伝子の働きぐあいできまった性質が現われ、それらは、精子と卵子という生殖細胞を通して子どもに伝えられて、遺伝ということが起こるわけです。箪遺伝子は、タンパク質とDNAという物質でできています。
ある結婚の例
人についての遺伝学は、非常に進歩していますが、まだまだじゅうぶんでなく、専門的に見て不明のことがたくさんあります。しかし結婚のときには、相手だけでなく、、その家系をながめて、悪い性質が現われているかどうか見ることは、一応の常識であり、だれもが心得ていることですゐそして、この場合、少し遺伝学の知識をもって見れば、さらに合理的に考えることができましょう。“氏より育ち”というように、家系がどうあろうと、育ち、つまり環境のほうが人の性質を強く支配するという考え方もあります。しかし、人が一個の人格として成長するには肉遺伝も環境もあずかって力があり、どちらが強いかは論議の的ですが、“血筋は争えない”ということばもあるように、遺伝が大きく働くことは無視できません。
D君は一昨年大学を出てデパートに勤めているサラリーマンですが、D君のデパートにアルバイトに来た女子学生のBさんと知り合いになりました。
家が近かったり、音楽好きという趣味の一致もあったりして、親しい交際をつづけていましたが、Bさんの大学卒業を機会に結婚のことを考えるようになりました。交際中にも何かとお互いの家族や親戚のことが話題になりましたが、結婚に当面して、遺伝についての考慮から、詳しく自分の周囲の人について話し合いました。
D君の家系には、問題になることは何もありません。ただ、D君のスポーツ好きは、彼のおとうさんと、その弟つまりおじさんが、大学時代スポーツの選手であったことなどから、やはり血筋は争えないものだということ。それに、おとうさんもおじさんも頭をちょっと左に曲げる癖があり、D君にもその癖があるので、これは体の作りの遺伝が原因に違いないと、ほほえましい一致を見出したのです。
ところが、Bさんの家系で、一つ問題になることがありました。それはBさんのおとうさんの父親、つまりBさんにはおじいさんにあたる人が、生前テンカンの発作があったということなのです。すでに死亡している人ですし、現在Bさんの一族には、この病気をもつ人はだれもいないのですから、Bさんが話さなければわからなかったのですが、正直に打ち明けて、二人でこのことを問題にして考え合いました。
遺伝の本と、大学時代のノートを参考にして、二人の出した結論は、次のようなことでした。
遺伝の基礎原理
さて、遺伝子のもっているいろいろな性質は、すべて対になっているのです。一例をあげると、鼻筋が通っていて高いという性質に対して、鼻筋が通らず低いという性質が、互いに対をなしています。そしてこの二つの対になる性質の中で、必ず一方は他方に対して働きが強いのですが、この例では、鼻筋が通っていて高いという性質が強いのです。この二つの性質を現わす遺伝子を、Aとaで表わすと、鼻筋の通った人はAAという遺伝子を各細胞にもち、鼻筋の通らない人はaaいう遺伝子をもつわけです。そしてAはaよ紅働きが強いのです。それで、Aを優性、aを劣性といいます。
ですから、AAという遺伝子をもつ人では、Aがaよりも働きが強いので、Aはaを押さえ、aの働きはけっきょく表面に現われず、Aの働きのみが現われて、鼻筋の通った顔になるわけです。
さて、D君とBさんの場合にもどっていうと、テンカンという病気をもつ性質は、テンカンのない健康な性質に対して劣性で、テンカンの遺伝子をaとすれば、健康遺伝子がAです。健康な人はAA、テンカンの人はaa、Aaの場合は、表面健康であるが、テンカンの素質をもっているということになります。
そこで、Bさんのおじいさんはテンカンですからaaですが、おばあさんは健康でAAと考えられます。この二人の結婚では、おばあさんの卵子がAで、おじいさんの精子はaですから、(卵子や精子には、遺伝子は対でなく、半数が伝わります)その子であるおとうさんはAaで、いちおう健康な入と変りはありません。そして、Bさんのおかあさんは健康でAAですから、卵子はA、おとうさんの精子はAかaで、BさんはAAかAaですから、いずれに、しても健康なわけです。
そして、D君はAAですから、二人が結婚した場合は、子どもはAAかAaで、問題はありません。
二人でここまで考えて、子どもが生まれてもテンカンの心配はないという見きわめがつき安心しました。秘密にしたまま一人で思い悩んだりせず、すっかり話し合ったのは、明るい結婚をするために、ほんとうに賢明な方法だったといえましょう。
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